アホおやぢの「WSET Diploma の作り方」

何かの間違いで数年前に Diploma を取得しました。今は Candidate でもないのに Diploma について語ります。

WSET Diploma カリキュラム変更点

このエントリーでは、2019年8月からの新カリキュラムとそれ以前の旧カリキュラムがどのように違っているのかについて述べたいと思います。
 
新カリキュラムから Diploma 修行を始めている方にも 知識として知っておいてほしいこともちらほら書いているので (例えば「今の D1 は昔の Unit2 だった」とか「Paragraph 問題」とか「Essay 形式」など) 軽く流す感じで結構ですので目を通しておいてください。 
 
 
さて、以下が変更点です。 
 
1.Spirits(旧 Unit4)がなくなったこと 
日本人にとって 旧Unit3(現 D3)Theory についで鬼門とされていた Unit です。解脱している人の中にも Spirits は2回 Fail を喰らっている人も普通にいます。 また、何度受験しても この Unit でパスが取れず殉教した人も数知れずです。また、Spiritsは、Unit1 CWA(現 D6)、Unit1 CS(現D2) にもしばしば出題され、 修行者を苦しめてくれました。 その Unit がなくなったのは朗報でしょう。
 
【おまけ】
「殉教者」
解脱できずに途中でドロップアウトした人のこと
 
2.WSET 自体が Diploma 用 eBook を作成したこと 
旧カリキュラムでは Diploma受験者は、 WSET発行の紙ベースの Study Guide と Oxford Company to Wine(OCW)の購入が必須でした。 Study Guide には、Burgundy を例にとると、
Burgundy / Cote d'Or / Nuits / Grand Cru / Premier Cru / Monopole / Drouhin / Jadot, Louis / Hospice de Beaune / Negociant / などの単語が並んでおり、受験者はこれらの単語をいちいち OCW で調べ、ノートを作る作業を強いられていました。 当然これにはすごく時間がかかる上に、 OCWには、Cote d'Or や Nuits などの Appellation の 6 Factors が必ずしも書かれているとは限らず、 また文章自体も非常に読みにくいものでした。 新カリキュラムでは WSET 自身が、分量は多いものの試験に必要な情報をわかりやすい英語で書かれている eBookを発行してくれたおかげで 受験生はこれらの苦痛から一気に解放されたわけです。 
(なお、OCWと首っ引きでノートを作る作業は、 Unit3(現 D3)、Unit5(現 D4)、Unit6(現 D5) で必要でした。Unit4 Spirits のみ WSET が作ったまともなテキストがありました。) 
 
3.栽培・醸造などの試験が論述式になり、ウエイトも増えたこと 
旧カリキュラムの Unit2(現 D1)は100問4択の出題形式でした。 Unit2 の紙ベースの Study Guide だけは 上述の他の Unit のものと違ってかなりまともで それだけ読み込んでおけば余裕で合格できるものでした。 凡人でも 唯一 Distinction が取れる Unit と言われていたものです。 ただ、Unit2 のテキストがまともだとは言っても、 今の D1の充実したテキストに比べればかなり見劣りがするそうですが。 それから、旧カリキュラムでは Unit2 のウエイトは 全体の10%だったのですが、 新カリキュラムでは D1 のウエイトは 20%に倍増しています。 WSET がいかに栽培・醸造などが重要と考えているかがこれを見てもよくわかります。 
(2016年の Level3 のカリキュラム変更でもテキストの全体のページ数は減りましたが、 栽培・醸造などのページ数は逆に増えました。) 
当然のことながら、4択から記述式になったために Fail を喰らう修行者が大量発生することになりました。
 
4.D2(ワインビジネス)の創設 
旧カリキュラムでは Unit1 Case Study(CS)といって試験の4週間前にお題がウェブ上で発表になり、受験者はそのお題についてのリサーチをして試験に臨むという科目でした。 2018/19 を例にとると、
2018年11月 Sustainable Wine Tourism
2019年3月  The ups and downs of the Sherry market 
2019年6月  The lower alcohol wines and spirit category
といった感じです。
試験を受けた時のお題についての知識は深くなるのですが、 それだけでおしまいという Unit でした。 新カリキュラムではワインビジネス全般を扱っているため汎用性が広く、D3、D4、D5 などにも応用が利く勉強しがいのあるものになっているそうです。 
 
5.Essay 形式の問題が消滅したこと 
Essay 形式というのは、旧 Unit1 CS と 旧 Unit3 Theory の2問目の解答形式で、 序文・本論・結論 からなるもので、設問に対する答えは本論に書きそれ以外に序文(イントロダクション)と結論(個人的見解など)を書き加えるもので、 これもまた日本人には苦手とする人が少なからず見受けられたものです。 解答者は単に問題に答えればいいというわけでなく 上述の形式に則って解答する必要がありました。 
この「Essay 形式」という言葉は 後々このブログで出てきますので覚えておいてください。 
 
6.Paragraph 問題がほぼ消滅したこと 
Paragraph 問題というのは、 旧 Unit4、5、6 の Theory 全てと 旧 Unit3 の Theory1~2問に含まれる出題形式で、 単語、もしくは短い言葉の説明をするもので、解答者は知識を吐き出すだけでよい というものです。 しかし、重箱のスミをつつくような問題もしばしば出され、修行者を苦しませていました。 Unit3(現 D3)で大問7問のうち1~2問、 Unit4(現在なし)、Unit5(現 D4)、Unit6(現 D5)では3問すべてがこの形式でした。 
例)Unit5 2016年11月 
In relation to sparkling wines, write about each of the following: 
a) Tank Method   b) Champagne Bollinger S.A.   c) Cava grapes 
いわゆる「知識吐出し系」ともいわれる問題で、解答者は文脈やロジックを考えることなく知っている事実を書き出してゆくだけで 得点できるものでした。ただし、上記の Bollinger のようないわゆる「生産者問題」は修行者泣かせでした。 
エッセイ形式と Paragraph 問題がほぼ消滅したことは、 WSET が受験者に修辞上のお約束や単なる丸暗記を強いるのを止め 全ての問題で論理的に理論を展開させることを期待するものになった、ということだと思います。
この「Paragraph 問題」という言葉も後々このブログでしばしば登場するので覚えておいてください。 
 
7.D3 の Theory が易しくなったこと
旧カリキュラムでは Unit3(現 D3)以外はすべて Pass しても Unit3 だけは何度受けてもクリアできずに殉教する人が多かったのですが、上記の Paragraph 問題の消滅などの理由により 合格者も明らかに増えています。
 
8.試験時間が長くなったこと 
旧 Unit3 は、同じ日の午前中に Tasting(60分×2) 午後に Theory(3時間)だったのが、 D3 の Theory が2時間+1時間20分、Tasting が Theory の次の日の 90分×2 になりました。 旧 Unit5,6(現 D4、D5)は 65分から 90分になりました。 これは受験生にとってはかなりありがたいことだと思います。 
 
9.勉強時間が短くなったこと 
旧カリキュラムでは 600時間 が推奨されていたのですが、 eBook ができたことと Spirits がなくなったことで 500時間が推奨勉強時間となりました。 
 
10.WSET に支払う費用がバカ高くなったこと 
1科目当たりの 受験料は30~50%近く値上がりしています。さすがは、銭ゲバ腹黒サクソン人!
 
 
【おまけ】
旧カリキュラムの Unit2(4択)を受験してほどなく、新カリキュラムになって eBook ができたために OCW 地獄から逃れることができ、同時に Unit4(Spirits)がなくなり、さらに D3 が易しくなり 解脱が容易になった 2017年~2018年頃 Diploma 修業を始めた人たちのこと。
 
 
以上、カリキュラムの変更点でした。