アホおやぢの「WSET Diploma の作り方」

何かの間違いで数年前に Diploma を取得しました。今は Candidate でもないのに Diploma について語ります。

WSETとは(JSA との比較において)

そもそも WSET って何よ?と思う方もいらっしゃると思います。
 
簡単に言うと、JSA日本ソムリエ協会)というのは、主として日本のソムリエ(=ワインのサービスをする人)のための団体であるのに対し、WSET は 正式にはWine and Spirit Education Trust といってイギリスに本拠があるワイン、スピリッツ、日本酒(もうすぐビールも)の世界的な教育機関で、主として種類の流通・販売に重きを置いています。
 
 
以下では、JSA と WSET を詳しく見ていくことにします。
 
JSA
アホおやぢに言わせれば、JSAは「ソムリエによるソムリエのための日本ソムリエ協会」です。ここではあくまで主役はソムリエ、実際会長の田崎真也氏を筆頭に理事や執行役員全員日本ソムリエ協会のソムリエ資格保持者で、ワインエキスパートの人は一人もいません。(一時期 例外あり)
 
また、ワインを主とした酒類の普及のためのセミナーを頻繁に開催していますが、これも8割方平日の昼間に開催されており、夜に仕事があるソムリエの方を向いていることがよくわかります。(もちろん業界人以外の人向けにワインエキスパートという資格もありワインエキスパートのみが講師となれる「ワイン検定」なるものを実施し、ワインの普及に努めているので、100% ソムリエのための組織ではないのかもしれません。ただ、こういった動きはここ10年以内の出来事です。)
 
JSA が掲げていると思われる目標の一つに世界ソムリエコンクールで通用する(あわよくば田崎真也会長のように優勝する)ソムリエを育成することがあると思われます。世界ソムリエコンクールはソムリエ界の頂点なのは間違いないのですが、他に Court of Master Sommeliers の最高資格であるMaster Sommelier(MS)というのもあるにもかかわらずJSA は MS の方にはあまり関心がないようです。そのため、JSAの試験(ソムリエ、ワインエキスパートなど)も世界ソムリエコンクール、従って全日本ソムリエコンクールのそれを強く意識したものになっています。例えば全日本ソムリエコンクールの筆記試験問題は暗記中心で、重箱のスミをつつくような問題も出題されるらしいので、JSA の筆記試験も暗記(問題によっては重箱の隅をつつくようなものもあります)が主体となっていると思われます。
 
 
<WSET>
WSET の最上級資格である Level4(Diploma)は’creating the trade professional' を目指しており、ここからもワインの流通・販売に重きを置いた組織であることがわかると思います。
 
また Diploma に次ぐ Level3 では、'Understanding wines; Explaining style and quality' を目標としており、ブドウの栽培・ワインの醸造がどのように個々のワインのスタイルに影響を及ぼすかを学ぶカリキュラムになっています。これも、ワインを販売すると界きには重要なポイントだからです。
ワインの世界における上位資格には、先に述べた MS の他に
Institute of Masters of Wine の Master of Wine(MW)というのが挙げられます。MW になるためには WSET Diploma の資格を保持していることが強く奨励されています。従って、Diploma の試験も MW の試験を見据えたものになっています。
MW の試験の過去問は公開されていますので、ご興味のある方はご覧になって下さい。 → こちら
 
 
以上のことを簡潔に述べると、暗記中心で What? を聞かれるのが JSA、ロジック中心で Why? How? を聞かれるのが WSET ということができるでしょう。
 
 
次に 筆記試験そのものについて具体的に述べてみます。
 
例えば、チリを例にとると JSA の試験では以下のような問題が出題されます(問題一部改。実際の問題形式は 4択)
 
1.長い間 Merlot と混同され、元来ボルドーで広く栽培されていたブドウ品種は?
(答: Carmenere)
 
2.原産地呼称ワインで原産地を表示する場合は、表示原産地の該当品種を何%以上使用しなければならないか?
(答: 75%以上)
 
3.Subregion に認定されている Maipo Valley のある Regionは?
(答: Central Valley)
 
4.ワインに関する法的規制を執り行っている組織は?
(答: SAG
 
5.Maipo Valley で最も栽培面積の大きいブドウ品種は?
(答: Cabernet Sauvignon(CS))
 
6.1851年にフランスから高級ブドウ品種を持ち込み、チリのブドウ栽培の父と呼ばれているのは?
(答: シルヴェストーレ・オチャガビア)
 
7.チリ沖を流れる寒流は?
(答: フンボルト海流)
 
 
これを落語の三題噺よろしく無理やり組み合わせて Diploma 風の文章にすると、
 
「チリで本格的にワイン栽培が始まったのは、1851年にチリのブドウ栽培の父と呼ばれるシルベヴェストーレ・オチャガビアがフランスの高級品種を持ち込んだときといえる。
 
チリは南北に細長い国であり、国土のほぼ中央部にある Central Valley の中のSubregion の中で最も有名なのが Maipo Valley である。このあたりの気候は、長い乾燥した夏と短い少雨の冬が特徴の地中海性気候である。同じ地中海性気候と言っても、沖合を流れる寒流のフンボルト海流のためにヨーロッパの地中海沿岸のように暑くはならない。とはいえ、収穫期に雨が降らないために晩熟の CS も十分熟し、かつ気候が安定した地中海性気候であるためにヴィンテージ差が少ない安定した品質のワインの生産が可能となる。実際 Maipo Valley で最も栽培面積の広いブドウ品種が CS である。
ところで、同じ CS でも Maipo Valley でも東側の斜面からはブドウが日中 太陽の光をよく受けるために色も濃く、よく熟した黒系果実の香りがする アルコール度数の高い、熟したタンニンのあるフルボディのワインができあがる。日中の暑さにもかかわらず、夜中には アンデス山脈から降りてくる冷気の影響で気温の日較差が大きくなり 酸も強く、フィニッシュも長めの高級ワイン(例: Almaviva)となる。ここは、ローム層のような水はけもよく養分も少ない土壌であることも高級ワインの生産に向いている条件を満たしている。
また、Maipo Valley の中央部~西側では、東側ほど太陽の光を受けず、また冷気の影響も受けないので色が中程度で、黒系の果実の香りのする、タンニンも酸もボディも中程度で、フィニッシュがやや短いいわゆる「チリカベ」という言葉から連想される大量生産低価格、でも品質はそこそこいい(例 Cono Sur)というワインができあがる。
土壌も粘土質で水はけも悪く養分も多いために高級ワインの生産には向いていない。
 
1990年前後から、ステンレスタンクなどの設備やブドウ畑などに積極的な設備同士がなされるようになり、また”テロワール”を重視したブドウづくりもされるようになり、チリワインの品質がどんどん向上していった。(この過程で、1994年 それまで Merlot と思われていた品種が実は Carmenere であることが判明した。)
 
このころから政府もワイン産業を重要なものと位置づけ FTA の締結などの後押しで輸出を積極的に奨励するようになった。(チリでは原産地呼称ワインで、原産地を表示する場合は、表示原産地の該当品種は75%でよいが、欧米では85%が基準になっているので輸出用のワインはこの数字はすべて85%以上となっている)」
 
少し無理がある(だけでなく間違いも)あるかもしれませんが、JSA の試験問題を無理やりつなげると上記のようになります。D3 の Theory 問題では、これよりも内容が深く長さもこれ以上の解答を書かされます。
意味も分からず「フンボルト海流」を暗記させられるよりは、点と点がつながって線になり、やがて面になるところに Diploma の醍醐味があると言えましょう。
もちろんそのためには JSA 以上にはるかに多い知識と それを有機的につなげてゆく練習を2年前後の期間 英語で行う必要があります。
 
 
WSETとJSAは目指していところが違うので必然的に試験内容も違ってくる、ということがご理解いただけたでしょうか?
 
 
【おまけ】
SAG ってなんやねん!
・ 本当は「シルヴェストーレ・オチャガビアって誰やねん!」と突っ込みたかったのですが、三題噺でお題を無視するわけにはいきませんでした。
 
 
続いて Tasting 試験についても違いを述べます。
Level3 受講中、もしくは終了した人にとっては既知の事実と思いますが。
 
JSA
アホおやぢは 並資格(ワインエキスパート)しか受験したことがないので WE の Tasting 試験について述べます。
外観(Apperance)、香り(Nose)、味わい(Palette)(=ANP)をマークさせるところは WSET と同じです。最後に「(供出)適正温度」「(供出)グラス(の大きさ)」などの設問があるのが いかにもサービス重視の JSA らしいところです。
 
<WSET>
WSET でも ANP を書かせるところまでは JSA と同じですが、結論の部分で品質評価が求められます。Level3 では acceptable - good - very good - outstanding の評価だけをしておしまいでしたが、Diploma の Tasting では それらの結論を出した理由を詳しく説明し、さらに 瓶熟成の可能性についても理由付きで書かねばなりません。
 
 
以上 Diploma のほんの一部ではありますが、JSA との比較をしてみました。